生きていく中で。

好きなもの。電車や土地やアーティスト。

静かな緑と踏切の音

 

電車に乗ったあとの踏切を渡る瞬間が好きで、踏切の音が好きで、そこを通り過ぎるとだんだんと漂ってくる、どこかの家のごはんの匂い、遠くなる踏切と列車の音。

帰り道は少し歩くくらいがちょうどいい。

 

今日、帰省のときにしか乗らない「湘南新宿ライン」に乗ってしまった。この路線で渋谷より先の都内で降りるのは今日が人生で初。

「次は 恵比寿、恵比寿」

アナウンスに心踊る。

土地柄、JRは山手線以外には乗らない。故に湘南新宿ラインで都内の家に帰るとは思わず、乗っている時はすこしだけ夢ごこち。渋谷駅で不意に流れる発車ベルの余韻に浸っているうちに 大崎駅に着く。

 

「次は西大井、西大井」

ふと窓の外に目を遣ると、高層マンションが3つと低層住宅の明かりがすこし。間もなく駅に到着し、駅から出ると、マルエツが直ぐに目に入り嬉しくなった。上京してから2年間、ずっと通っていたスーパーだったが、引っ越してからは1度も見ていなかった。いまの近所にはやたらとまいばすけっとが多く、マルエツに行けない事を寂しく思っていた。迷わずに中へ入り、引越し前に記憶を戻しながら、久々に楽しく買い物をした。 「そうそう、ここではTカードが使えるんだ」と、久しく取り出していなかったTポイントカードをスキャンする。

 

こんなに楽しい帰り道はいつぶりだろう、と口許が緩むのを抑えながら、ゆっくりと降りる踏切の遮断桿を見つめる。

小さな公園から小さく虫の声が聞こえ、初夏を知らせる。

東京の蝉の声は、田舎よりもずっと近く感じて煩くて、けれど車や都会の喧騒と比べたら幸せな音だ、と思いながら歩く。

狭い道路に、たまに聞こえる車の音、遠い列車の音と遮断機の警報機。ごはんの匂いと、木を揺する風の音。そうそう、帰り道はこうでなくちゃ。

頭の中ではさっきからウカスカジーの「my home」が流れている。もうすぐ家だ。幸せな帰り道が終わってしまう。

 

今日はちょっとした旅気分。

土地や電車がすきだと、ただ家と会社を往復するだけなのにこんなに幸せを感じられて、自分は得しているな、と思う。

 

 

次もまた、きっと、乗ってしまう。

やっぱり電車が好きなんだ。